呼吸のしくみ〜横隔膜の動きをよくするには?~

横隔膜ってご存知でしょうか?


呼吸に関係する、胸とお腹の間にあるクラゲのような形をした膜状の筋肉のことをいいます。
お肉の部位で言えばハラミやサガリです。


まずはその呼吸についてお伝えしなましょう。


生命の維持には心臓での拍動、そして肺での呼吸が必要です。
心臓の拍動は意識的に止めることはできず、規則的なリズムを刻みます。


一方,肺での呼吸は無意識的に一定のリズムを刻む仕組みもありますが,
呼吸運動は随意筋が担うため,呼吸のリズムを意識的に変化させることもできます.


そもそも肺には筋肉がないので、自らふくらんだり、縮んだりすることはできません。
どうやって息を吸ったり、吐いたりしているのかというと、
その秘密は肺を包んでいる胸腔や横隔膜にあります。

図 1 は右の肺を示していますが、このように胸腔は肺を包む箱のようなもので、その底には横隔膜が
ある構造をしています。


呼吸は簡単に言いますと、図 2 のように横隔膜が縮んで下がると、胸腔がふくらみ、肺の中に空気が
入って息を吸うことができ、反対に横隔膜が伸びて上がると胸腔はしぼみ、肺の中の空気が出て息を吐
くことができます。


よって、横隔膜の主な役割は呼吸で、息を吸い込む(吸気)時に使われます。
2 万回/日以上も行われている呼吸のそのほとんどが、横隔膜が伸び縮みすることによって行われ、
安静時の吸気の約 60~80%を担っています。最大で 6~10 cmも動きます。


特に、発声時には大きく息を吸い込む必要があるため、横隔膜を意識するように言われるのはそのた
めです。

前書きが長くなりましたが、横隔膜は筋肉であるため、鍛えることは可能です。


体重との間に高い関わりがあるようで,デスクワークと肉体労働の方の比較では後者のほうが著しく
発達しているようです。
負荷をかけることにより、筋肉が強くなり得ることが示唆されています。


では、肉体労働をして身体を酷使すればよいのか?となりますが、そうではなくて、
呼吸を正しく行なおうと言うのが今回のテーマです。


ジョセフ・H・ピラティス氏(ピラティスの考案者)は
『ただ息を吸ったり吐いたりするように言うだけでは何の役にも立たない。呼吸法を学ぶことは、普
通の人が思っているよりもはるかに難しいことなのである。』
『正しく呼吸するためには、肺の中が真空状態になるまで完全に息を吐き出し、それから吸わなけれ
ばならない。汚れた息のすべての分子を、濡れた生地から一滴残らず水分を絞るように、肺から絞り出
さなくてはいけない。』と話されています。


正しい呼吸を行なうためのキーワードは、
今まで話してきた横隔膜、そして胸郭、姿勢、腹式呼吸です。


つまり、「横隔膜を大きく動かす、そのためには胸郭の広がりが必要で、胸郭を広げるためには正し
い姿勢をとり、腹式呼吸で意識的に使う」
と正しい呼吸ができると考えます。

胸郭は、図 3 の赤枠の部分を指します。
肌色の部分が横隔膜です。構成は胸椎 12 個、肋骨 12 対、胸骨 1 個、肋骨と肋骨の間をつなぐ筋肉(肋間筋)です。
胸郭は心臓や肺など胸腔内の重要な臓器を保護し、頭頸部や上肢の運動と安定のための筋付着部としての機能ももっています。


よって構造的には内側から、肺⇒胸腔⇒胸郭の順にあり、マトリョーシカのようになっています。


姿勢は、「猫背・円背姿勢」が胸郭の動きを制限します。

長時間のデスクワークによるパソコンの使用や、最近ではスマートフォンの普及により、若年層でもこの姿勢を呈している人が急増しています。


つまり胸郭(肺を入れている箱)に弾力または拡張性がなければ肺は十分に広がらないので、まずはこ
こを柔らかくすることが必要です。


そして、腹式呼吸は横隔膜呼吸といわれ、その名の通り横隔膜の収縮を促し、胸郭下部の拡張を伴う呼
吸法です。
そのため準備として胸郭を柔らかくしてから、腹式呼吸をすることが横隔膜の運動になると考えます。

一例ですが、ストレッチをご紹介します。
1 両手を横に広げて(バンザイをして“伸び”をした姿勢も)両膝を左右にゆっくり倒す 図 3
(腰回りと肋間筋のストレッチで全体の柔軟)
2 横向きで胸を広げる *肩で動かさず、肩甲骨を引くイメージ (大胸筋のストレッチ) 図 4
息をゆっくり吐きながら上方にある手で大きく円を描くように。大胸筋の伸張が感じられる位置で止め、その状態でゆっくりと呼吸を行った後にスタートポジションへ戻ります。
3 胸椎(胸の背骨)を伸ばす。(小胸筋のストレッチ)図 5
スタートポジションは仰向け。両脚を曲げた状態で肩甲骨の間にスモールボールや、枕、丸めたタオルを入れたポジションをとります。この姿勢をとるだけでもいいですが、可能であれば図のようにゆっくり肩を下に押してあげてください。

作成者:斉藤透(理学療法士)

引用・参考
Sportsmedicine 2014 No.159~161 ピラティスメソッドの可能性 2~4 坂元大海
PT ジャーナル Vol.55 No.6 JUN. 2021 横隔膜の姿勢調整機能についての 検討 立石貴之
プロメテウス解剖学アトラス
次回は、正しい姿勢ってなに?をお伝えします。