「なぜサッカー選手が肩甲骨をケア・トレーニングするのか」〜後編〜

前回に引き続き、肩甲骨の重要性に関して述べたいと思います。

今回のターゲットは『キック動作』です。

ボールを蹴るというキック動作は、ラグビーやアメリカンフットボールにおいても見られますが、
サッカーでのキックはキーパーがいる時点で意味合いが幾分変わってきます。

方向や距離だけではなく、速さも求められます。
決して速いボールを蹴ることがゴールに直接結びつくとは言えませんが、大事な要素であることは間違いないでしょう。

まず、キック動作は
①支持脚の踏み込み
②蹴り脚のバックスイング及びフォワードスイング
③ボールインパクト
④フォロースルー
に分けられます。

物理学的には振り子の原理を考えてみると、振り幅が大きければ大きいほど、
先端につけた球のスピードは速くなりぶつかった時の衝撃を大きくなる。
③ボールインパクトは蹴り脚の運動とボールの衝突現象と言えます。

これまで多くの解析がされてきており、ボールの速度はインパクト前の足部速度と蹴り脚の質量及び硬度によって決まります。
より速く脚を振り、体重を乗せ、足を硬めるとボールの速度が速くなるということになります。
 
そのために、効率良く身体運動を行う必要があります。
身体運動は、骨格筋の収縮力が関節にトルクを発生させ、関節を軸として骨を回転させることによって生じるとあります。

つまり、筋の活動が関節を軸とした運動を生み出すということです。
 
具体的にいうと、サッカーのキックや野球のスイング、投球動作です。
何かの動きを始める際には、全身をムチのように使い、遠くにある(遠位の)手足の動きよりも先に、体幹(背骨)および肩甲骨、骨盤帯周囲の筋の活動が始まります。

次第に遠位へと動きが移っていくような動作の連続(キネティックチェインあるいは運動連鎖)で成り立っています。

でんでん太鼓をイメージすると分かり易いかと思います。
言い換えると、中枢部の脊柱から始まる動きを手足の末端へ伝える役割を果たすのが股関節と肩甲骨となります。

この二つを大きく素早く動かせるかで力の伝わり方が変わります。

近位部の力をいかに効率よく遠位部に使えるか加速させるかがカギとなります。

仁賀定夫氏は良好なキックフォームの要素として以下のことを挙げています。
①体幹の軸が安定していること
②軸足の外転筋力が十分であること
③キックする足と反対側の肩甲骨(上肢)が骨盤を介して連動すること(cross motion)
④骨盤が垂直・水平回旋すること
⑤両側の肩甲帯を結んだ水平軸と骨盤の水平軸が互いに協調して逆方向へ回旋すること。
 
良好なキックの連続性 (英語部分を日本語に変更し一部改変2014仁賀)
クロスモーション

左:骨盤の水平回旋と十分な股関節外転筋力、安定した体幹軸があります。
右:骨盤の垂直回旋ができている。

仁賀氏が考えたクロスモーション(造語です)と呼ばれる運動は、キックする足と対角にある上肢帯の伸展運動も利用して全身でキック動作のことです。

上肢から体幹の動きに連動して反対側の下肢をスイングするとも言えます。

この動作を獲得することが、サッカー選手で好発する鼠径部痛症候群の予防にもなります。

参考にしたいのがジェラード氏とベッカム氏です。
シュートの種類が違うため、両者のフォームには違いがありますが、上半身と下半身を連動させ全身を使ってシュート姿勢に入っているのが分かると思います。(下写真)
左上肢は大きく高くバランスをとり後方へ張りを作り、まるで弓のように右下肢は大きく後方へ振り上げられています。
これがクロスモーションです。
そしてもう1つ、肩甲骨の水平軸と骨盤の水平軸が逆方向へ回旋しています(ジェラード氏がわかりやすいです)。
この後、ボールインパクトに向けて、急激な速さで逆の動き<右肩甲骨を後ろへ引かれ右の骨盤(下肢)が前に出てくる>になっていきます。

クロスモーション(一部改変)
左の蹴り脚と右の肩甲骨(腕)が連動している(下写真)

   
参考・引用
・月間スポーツメディスン1月号 157 ,2014 鼠径部痛症候群 仁賀定雄
・姿勢の脳・神経科学-その基礎から臨床まで- 大築立志・鈴木三央・柳原大
・岩手大学教育学部研究年報 第72 巻 (2013.3) 101 – 112
球技スポーツのインパクトにおける共通の“黄金律”を求めて サッカーにおけるシュート
のベストも探る一 佐々木職也 他
・日本アスレティックトレーニング学会誌 第5巻 第1号 3-11(2019)
体幹筋機能のエビデンスとアスレティックトレーニング 大久保 雄
・専門リハビリ 第12巻00~00(2013)
柔軟性テストと脊柱機能の関係性 九藤博弥 他
・バイオメカニズム 20 身体機能の補助と向上
 熟練者・未熟練者におけるインステップキック動作解析 中村康雄 

記事:T.S.(理学療法士)